黄月の周囲にも多種多様な依存症で苦しむ人様がいます。タバコやギャンブルや恋愛等、そして人様にやたらと求め過ぎる人様たちがいます。
誰よりも愛されたい、自分の気持ちを分かって欲しい、誰よりも幸せになりたい、と限りなく自我と欲望を人様に向け続ける人様が増えています。これは子供の話ではありません。大人の話なのです。
自分が幸せになる為には人様に我慢をさせることも厭わない、そして人様の人生を自分の人生の犠牲にすることを悪いこととも考えない実に幼い思考です。
最近はやたらと恋愛相談が増えました。恋愛が人生の全てと勘違いされている人様さえいます。恋愛とは何ですか?と質問をすると直ぐに『幸せになること』と答えが戻ってきます。確かに恋愛は幸せになる為に人様とご縁を結ぶことです。ですが恋愛はひとりではできません。大切な愛しい人様とご縁を結ぶことでありますから、相手の立場や気持ちも大切にしなくては成立しないのです。
自分が幸せになりたいから、自分の幸せの為に犠牲になって下さい。あなたは私の物です的発想で恋愛をすれば、相手を知らないうちに傷つけたり、相手の気持ちが離れてしまうのです。人を愛するとは、全てを受け入れて相手を幸せにすることを意味します。自分の為に人様に苦難や試練を強いることではなく、自分の全てを大切な人様に差し出すような気持ちでお付き合いをして欲しいですね。
よく失恋した後でも、諦めることができなくてストーカーになったり、相手のことを想い続けて心を痛める人様がいます。その原因は恋愛依存そのものです。人を愛することはとても素晴らしいことです。ですが、大切な人様の全てを自分の物のように勘違いして、自分の想い通りになることに幸せを感じてはいけないのです。
最近は恋愛依存症から〔求め過ぎ症候群〕にまで心の状態が悪化した人様が増えたように感じます。恋愛依存症ならば恋愛のレベルの問題だけで済むのですが、〔求め過ぎ症候群〕は恋愛のレベルに限らず仕事を含む日常生活まで人様に依存する状態を指します。
何もかも自分の思い通りになることが当たり前、自分の思い通りにならないことがあると心を病み、人様に攻撃したり、穴に篭ったりと利己的発想で人様を振り回します。仕事で失敗をすれば上司や同僚のせいにしたり、失敗をしたことを反省しないまま問題を摩り替えて感情的な言動を繰り返す人様もいます。
世の中は自分中心に回っていないことは知っているでしょう。ですが自分中心に回って欲しいと求め過ぎるのです。人様には人様の人生があることは分かっているのですが、自分の為にちょっとは我慢して欲しいと求め過ぎるのです。このような思考は周囲の人様を振り回し、人様の気持ちを逆撫でします。そうなれば社会生活を上手に成立させることも人間関係の構築にも支障を来たします。
黄月の勤める病院にもこの〔求め過ぎ症候群〕に罹患された人様がたくさんいます。そのひとりについてお話をさせていただきます。とても頭の良い女性(M)なのですが、上司や同僚と協調することが苦手なのです。上司や同僚が意見を言えば全て全否定、人様の意見を聞くことができないのです。そして致命的な点は、人様と共同作業をすることができません。この女性Mは、「私は人と一緒に動けない(働けない)から、人が動き出したら(働き出したら)私は何もしません。」と断言しました。
この言葉を聞いた上司は黄月にどうしよう?と相談して来ました。黄月はこの女性は、性格が悪いのではなく無邪気なレベルであると判断しています。友人としてお付き合いするのならば好き嫌いでご縁を絶つこともできるでしょう。ですが仕事場で同僚として働くにはとても厄介な存在なのです。
一緒に仕事をしていても「これお願いね」「患者さんが呼んでるから行って来て」といつも命令口調で上司でも同僚でも動かします。上司も既にこの女性に期待をしていないこともあり、病院で働いていますから患者さんを優先する為に文句も言わずに動きます。とても奇妙な雰囲気になっています。上司も同僚もとても優しい人ばかりの職場なのです。
数日前の出来事です。黄月は新入りと言っても医療界では経験が長く、今度の職場も指導的立場として病院の経営者に雇われています。ですから新入りであっても堂々と上司でも部下でも指導やアドバイスをします。きっとそれが気に入らなかったのでしょう。上司よりも黄月の方が実務経験が長いこともあり、どんどんと上司が黄月に質問します。すると黄月よりも先にこの女性Mは答えます。
この女性の答えが正しければ黄月は黙っています。ですが間違っていればもちろんその答えを否定し正答を伝えなくてはいけません。上司は「黄月さんに聞いているんだから、ちょっとMさんは黙ってて!」と言いました。」。上司も悪気はなく忙しさと苛立ちでついつい怒鳴ってしまったのです。この女性は机を叩いてその場を離れました。
上司も同僚もこの女性の機嫌を取りながら仕事をすることでとても疲れています。黄月が勤務するまでも、この女性に気を使い、機嫌を取り何とかチームワークを保っていたと聞きました。それも限界が来ている状態なのです。そこに黄月がノコノコと就職して来たのですから、Mさんはきっと面白くないでしょう。
この女性は黄月にはとても好意的です。黄月が経営者に雇われていることはしっかりと弁えているようです。ですが自分の立場が揺らいでいると勘違いしているようなのです。職場の上司も同僚もとても良い人様ばかりです。決してこの女性をイジメたりのけ者にしたりはしていません。ですがこの女性は〔求め過ぎ症候群〕ですから、自分の思い通りにならないことや、自分とは違う意見を言う人様に対しては攻撃するしかないのです。それ自体には悪気はないのです。
この女性は初対面の黄月に言いました。「私は大抵のことは何でも知っているから、何でも遠慮せずに質問してね。」と言いました。黄月はこの言葉を聞いて直ぐに『トラブルメーカーだな』と気づいていました。
この女性Mは職場の数人の同僚を無視しています。その為に若い同僚は時々涙を浮かべて仕事をしていることがあります。そしてその数日後に上司に黄月は呼び出されました。
「誰がMさんをイジメているか教えて下さい。」と上司は質問をしました。「ん?」。そうです、上司は数人の若い同僚がこの女性をイジメていると逆に見ていたようなのです。周囲から見れば集団でこの女性をイジメているように見えたのかも知れません。上司には大体の事情を説明しました。上司もこの女性の扱いに手を焼いているせいもあり、黄月の説明を聞いて納得はしました。
上司に質問の経緯を聞くと、イジメられていると上司に相談をしたのはMさん本人なのです。どれだけ気を使っても、どれだけ奉ってもMさんは満足しないのです。〔求め過ぎ症候群〕も重症であり、周囲にとっては一段と厄介者でしかなくなって来ています。ですが、何度も言いますがとても優しい穏やかな人様の集まった職場です。皆で話し合った結果、これまでと同じくMさんにはできるだけ気を使い、奉ろうと決めました。
これは奇妙な話だと思う人様もいるでしょう。Mさんを離職させることは簡単です。ですが、皆でその簡単な方法は選ばなかったのです。何とか仲良く、何とかMさんと上手く付き合えるようにもっと頑張る選択肢を選んだのです。黄月もホッとしました。Mさんは今までも10社以上の職場を転々としています。転々とする理由はMさんにあるのでしょうが、Mさんはお世辞でも裕福とは言えない境涯にありますから、ここらでしっかりと自分自身を見直し軌道修正して欲しいな、と願っています。
〔求め過ぎ症候群〕は完治は難しいでしょう。Mさんも既に30歳代の後半です。この歳になるとなかなか考え方や生き方を変えることは難しいでしょう。ですができれば人生後半をもっと楽しく穏やかに過ごして欲しいなと願うし、できればその手助けをしてあげたいな、っと黄月は思うのです。人は人、自分は自分。ではいけないのです。
